メディアが煽った“コロナ新薬”、アビガン、イベルメクチンの「開発中止」

みなさん、お元気ですか?私が拠点とする都内某所は、しとしと雨です。部屋にこもって仕事するには最適ですね。

さて先週、新型コロナ治療薬として注目されていた「アビガン錠」が開発中止になりました。もともとインフルエンザ治療薬ですが、新型コロナの世界的大流行が始まった2020年春頃から「新型コロナにも効くのではないか」という一部論文が出た。それを受け日本の厚労省は「正式承認でできないが、緊急事態でもあり、医師の裁量で使用してもいいよ」との見解を出していました。コロナパンデミックが始まった頃、メディアは、コロナにかかった芸能人や有名人をいちいち「○○がコロナに感染!!」と報道していました(いまだに続いていますが)。そして症状が治まり、治った芸能人、有名人を取材し、その人たちの声として「アビガンで助けられた!アビガンに救われた!」という見解を紹介しました。政府は、富士フイルム富山化学に増産を要請し、かつ数百億円に及ぶ補助金も投じています。

 しかし、正式に試験を実施してみたら、効果が証明できなかった。20年秋の中間解析で「アビガン、もしかしたら効果出てないかもしれない」という感じでしたが、22年3月に正式に試験を終了、データ解析したみたら、やはり効果が証明できなかった。富士フイルム富山化学が10月14日に「開発を中止する」と発表しました。

 同じく新型コロナ治療薬として興和が開発を進めていた抗生物質イベルメクチンも効果が証明できなかった。「効果がある」と推定する海外の臨床論文が複数出ており、医師会の某リーダーも「日本でもっと使えるようにすべき」とメディアで訴えていた。しかし、製造元のMSD(海外ではメルク)は「いまのところ当社が開発着手を決断できるような臨床的知見は得られていない」と、自ら開発する考えはないとの見解を表明した。これを受けて一部、医師、メディアから「MSDはイベルメクチンとは別のコロナ新薬を開発中(現在はすでに承認済み)で、そっちを売った方が儲かるから、イベルメクチンのコロナ薬開発をしたがらないのではないか」と穿った見方が出ていた。

 日本の製薬企業、興和が正式な臨床試験を進めていましたが、結果はネガティブ。効果は証明できませんでした。興和が9月26日に公表しました。

 ここで何が言いたいのかというと、当然ですが臨床試験を進めていた富士フイルム富山化学や興和をちゃかしたいわけではありません。

 精密度の高い臨床試験がどれほど大事か。そしてその結果が出る前に「この薬は効く!」「みんなこれを使え!」「なんで早く承認しないんだ!」と煽ることがどれだけ社会的資源に無駄を生じさせるか。もっと言えばリスクの高い医療が生じかねない情感的ムードを醸成するかーー。アビガン、イベルメクチンの「開発中止」をもって、改めて強く感じたのです。

 薬やワクチンが効くか、効かないか。その判定は、一定規模、一定条件下で行う臨床試験の結果を待つしかない。それさえ相対的なもので、絶対的なものではないのですが、「直観」とか、「情緒」とか、「激情」にかられた陰謀論とか、そんなものに支配されてしまうと、おかしくなことになるよと。結局、じれったくはありますが、精度の高い臨床試験を実施し、その結果を待つしか方法はないんだと。

 新型コロナ治療薬として期待されたアビガン、イベルメクチンの「開発中止」にそんなこを思うのでした。

 写真は先日、散歩中に道端で。とくに誰も手入れをしていないような花。だからこそ飾らぬ自然の美しさ、強さを周囲に放っている。日々是好日。晴れようが曇ろうが、雨、風、嵐にさらされ、雷鳴を聞こうとも。。。。それでは皆様、素敵な一週間をお過ごしください!

 

 

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