【8月18日発】「政治判断」を促す薬価制度改革論議のために!業界は「共通認識」を!

24年度の薬価制度改革に備え、6月に報告書まとめた厚労省の有識者検討会がどのような流れの中で設置され、議論されたのかーー。大まかに整理してお伝えします。先日、このブログの随想(8月14日発信)で触れましたが、最近、業界のみなさまとお話していると、各人各様かなり認識が異なっているように感じます。実際に起こった事象に照らして、できるだけ認識をすり合わせ、堅実かつ的確な政策論議を進めていただきたいです。

さて、有識者検討会をどこから振り返るか?

まず発足の遠因は、薬価制度に関する4大臣合意(16年12月20日)が掲げていた課題がひとまず完了したことです。4大臣合意の課題は①市場規模が急速に大きくなった医薬品の迅速な薬価引き下げ②新薬創出加算の絞り込み③費用対効果制度の本格実施④薬価の毎年改定などでしたが、21年4月の中間年改定の実施をもってほぼ完了。次なる課題設定に取り組む状態になったのです。

日本製薬工業協会は、これを機に、新たな薬価制度改革案を提案しようと水面下で議論を進めていました。実際、中山讓治会長(当時)は「アイデアはあるが、しっかりまとまってから公表したい」(21年3月23日記者会見)と答えていました。ところが、コロナ禍で世の中は、大わらわ。内部調整が長引き、中々、公表できなかった。

そうこうしているうちに、新時代戦略研究会(INES)が21年5月28日に記者会見を開き、独自の薬価制度改革案を発表します。この案の作成には、製薬協加盟社も数社入っており、市場拡大再算定の撤廃、メーカーの希望を最大限にいかした新薬の薬価算定など、製薬協と共鳴する部分もありました。しかし、医療保険財政の持続性の観点から、「薬剤費の総枠をGDPの伸びの範囲内に抑える」という点が大きく注目され、「財務省寄りだ」と業界内で猛反発が起こりました。

この案に対抗し、よりよい改革案を発信しようという狙いで、業界OB、厚労省OBが21年12月、薬価流通政策研究会(くすり未来塾)を発足させます。

一方、医薬品流通は、コロナ禍と、汎用薬の生産供給不足で大混乱。さらに旧態依然の取引慣行によるコンプライアンス問題が表面化します。

そんな中で、次の薬価改定(21年4月)をどうするかーー。20年夏から秋、秋から冬にかけて議論する中で、支払い側から「約20年間、調整幅について議論していない。議論すべきだ」(20年11月18日)という意見が上がりました。医薬品卸も、「2%の調整幅ではとてもやっていけない」と苦境を訴えました。その結果、「すぐには解決できないにせよ、議論を継続しよう」ということになり、薬価専門部会の資料にも、「調整幅をどうするか」という問題が論点として正式に明記されました(21年12月1日、論点整理案27頁)。厚労省も、長年、タブー視されてきた「調整幅」を本気で再検討する覚悟を決めたのです。財務省は、すかさず、財政審議会の建議書(21年12月3日発)で「薬価総額のマクロ経済スライド導入」(INESを追認)、「調整幅の廃止」を明記します。

時を同じくして、政局も大きく変化しました。岸田文雄内閣が21年10月に発足、厚労大臣として初入閣を果たした後藤茂之氏の元で、省内で話し合い、薬価、流通問題について議論する新たな場を設置することになりました。

そこで医薬品産業施策に長けた城克文氏(現医薬品・食品衛生局長)を初代の「医薬産業振興・医療情報審議官」(22年7月1日付)に据え、発足したのが、「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」でした。この時は、厚労省主導で新たな薬価制度や流通問題、とりわけ「調整幅」にメス入れするか時が来ると、思われました。

しかし、検討会開始の準備を進めている間に、内閣改造があり、第一回目がスタートした8月31日には、厚労大臣が後藤氏から、加藤勝信氏に代わっていました。それで、二回目の会合(9月22日)から、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」に名称が変わり、構成員も増えました。端的に言うと、「薬価」「流通」に課題を限定せず、国民、患者が直面して困惑している「安定供給」という切り口で、議論を進めることなったのです。

◆有識者検報告書は「ギリギリのライン」

加藤大臣の意向が大きく働いたのは間違いないでしょう。

これ以下は私の推定です。

「薬価」「流通」だけに焦点を絞れば、必ず「調整幅」問題に突き当たる。しかし、調整幅は2%とは言え、医療保険財源から出ている。薬価制度だけでおさまるテーマではない。例えば財務省が言うように「調整幅廃止」となれば、その財源を得ていた医療機関、薬局、卸は、どうなる?おそらく反発し、「ゼロにするなら、他の財源を用意しろ!診療報酬を上げろ!」となる。ゼロにしないにせよ、調整幅に代わる案を、十分なコンセンサスがないまま、厚労省のイチ検討会が打ち出すのはリスクが高い。下手すると、国政選挙に響く可能性がある。

そんな事情が背景にあるかもしれません。

よくよく考えれば、そもそも行政機関、省庁が、「薬価」「流通」、そして「調整幅に代わる仕組み」で、具体案を打ち出すのは、限界がある。なぜなら、いずれも医療保険、社会保障財政の運営に直結する。例え、具体案ができても、行政や、産業界だけでは実現できない。その時々の政局も左右する。最後は、いわゆる「高度な政治判断」を要するのです。

そういう視点に立つと、有識者検討会は報告書はギリギリラインまで書き込んでいる。

この報告書に沿って、中医協、流通改善懇談会、新検討会で同時多発的に、具体論が勃発しています。「高度な政治判断」を促す議論、結論を期待します。

 

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